こんなに帰りたい面接はかつてなかった【2】 ー期間工になってガチで成り上がってくるわ俺。ー

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

ジャグラー

ズルッたノリオとアケミと奇羅梨(キラリ)

パチスロでスッた。スッたどころじゃない負け方くらった。
なんていうか、ズルッた。そう、スッたというよりズルッただ。

ムカついて家帰ってビールぶっこんでたら、アケミ(妻)がギャースカうるせえから、頬をバチコーンって張った。いい音が鳴った。
そしたらアケミが泣きだした。いつもなら怒り狂うはずのアケミがガキみたいに泣いてた。
それを見て、俺はマジで目が覚めた。

パチスロは一生やんねえ。てか、むしろ期間工やるわ。
整備工やってるタカシ先輩が「ノリオよお、お前クルマいじんの向いてるわ、おおノリオよお」って言ってたしな。
ちょっとホンダ行ってくるわ、こっからガチで成り上がってくるわ。
じゃあなアケミ、奇羅梨(娘)、俺ガチで成り上がってくるわ。

――そんな複雑な事情を抱えてそうな10人の短パンの男たちと、そんなに大した事情もないブラックスーツのおれが一堂に会した本田技研のクラブハウス。

向かいの壇上には、HONDAの文字が刺繍されたツナギを誇らしげにまとった、ガタイのいい面接官が立っている。

どこかルーキーズのオーディションを思わせる景色の中、本田技研工業株式会社期間従業員合同説明会兼面接会がスタートした。
ほんとに漢字の圧がすごい。

ノリオだらけの不条理感

おれの周囲のノリオたちが、まるで珍しい生き物を見るかのように、おれのスーツ姿をチラ見してくる。

こっちからしたら、面接に短パンでくるノリオたちのほうが珍妙なのだが、ここではそんな常識は通用しないようだ。
むしろおれが常識はずれとなっているようだ。

そんな不条理な逆転現象が起こる部屋の中、面接官の重い咳払いが響いた。
「本日は、えー、このお暑い中お越しいただき、えー、ありがとうございます」
男はそう言うと再度咳払いをして、室内を一瞥した。
驚くことに、面接官までおれのスーツ姿に驚いた表情を見せた。

「まず、仕事がどういったものかをね、話だけじゃわかりにくいと思うんで、えー、スクリーンを使って説明しまして、えー、その後、面接を行います。えー、DVDで説明することもあるんですけど、まああちらのほうが見てるだけなんで私も楽なんですが、あれみんな寝てしまうんでね、ふはっはっはっ――」

人前に立って喋ることなど、小学校の日直当番以来ないおれがどうこう言えるものではないが、人は壇上に立つと”えー”が自動生成されてしまうものなのだろうか。

それはさておき、つかみそこなったツカミと思われるDVDのくだりにおれは驚いた。
さむっ! って驚きももちろんあったのだが、それ以上に、面接にきて寝るというパンクっぷりが当たり前となっている世界へのカルチャーショックだ。
そしてそれは周りのノリオ共を見れば納得だ。


面接官がスライドの準備をごそごそ進めていく間、新たにツナギ姿のやせた男が音もなく現れ、パンフレットや労働条件の書かれたプリント類を、面接者に手際よく配っていった。
白いツナギを着せておくには、もったいないほどの黒子っぷりだった。

男はプリントを配り終えると、幻のようにドロンした。
あの男の今日の仕事はこれだけなのだろうか。
とてもうらやましい。

給与、シフト例、手当てを含んだ月収例などが載っているプリントに興味深く目を通しだしたあたりで部屋の照明が落とされ、パワーポイントを使った講習がタイミング悪くスタートした。

期間工の仕事内容

面接官は、工場内でどんな仕事があるかをテンポよく説明していく。
「一応、面接時にどういった仕事に配属されたいか希望はうかがいます。とはいえ、8割の方が組立に配属となりますので、希望通りにならない可能性もある点はご了承ください」

面接官の、屈強なルックスとは裏腹のたくみなパワーポイント使いで、おれはあらかたの仕事内容を理解した。

組立――無表情の男たちがインパクトドライバーを手にして、日常ではまずすることのない姿勢に体を折り曲げて、エンジンや車体に向き合っている。
塗装――サイバーパンクな防護服を着た男たちが、表情はわからないがたぶん無表情なまま、なにかを塗ってる。
溶接――サイバーパンクな防護服を着た男たちが、表情はわからないがたぶん無表情なまま、なにかをやってる。
検査――清潔感のある真っ白なツナギ姿のキュートな女性が、真剣な面持ちで車体を見つめている。

希望は即時で決まった。
第一希望、検査。
第二希望以下、なし。

おれはこの後おこなわれる面接に備え、希望を叶えるための作戦会議を脳内で始めた。