こんなに帰りたい面接はかつてなかった【4】 ーインコからの、エミネムからの、ホラッチョー

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

eminem

面接の番がきて、おれはエミネムになる。

何人かの面接が終わり、とうとうおれの名前が呼ばれた。
おれは名前や住所、握力の数値を記入した紙を手に、面接官の前に座った。

離れていたときは、終始微笑を浮かべ穏やかそうな印象の面接官だったが、間近で見るとピリッとした緊張感を孕んだ、どこか威圧的な雰囲気を放っている。
とりあえず目が全然笑っていない。

これが何十、何百人の猛者共を相手にしてきた百戦錬磨のオーラか。
その目から見たら、おれなど雑魚にすぎないのだろう。

面接官がフレンドリーな口調で「それじゃあよろしくお願いします」と言った。
「はい、お願いします」
「しかし、この面接もう何年もやってるんだけどさ、スーツで受けにきた人は君が初めてだよ」
やはりな。
皆が特殊なのでなく、おれが特殊だったのか。
薄々気づいてたさ。

面接官が用紙に書かれたおれのデータを指でなぞっていく。
「うん、家はけっこう近いんだね。ちなみに寮には入る予定?」
「はい」
「現住所との距離によっては、寮に入れない可能性もあるので、それはご承知くださいね。基本的には遠方から来られる方が優先となります。また狭山の寮でなく、近くのマンスリーアパートや、寄居工場近辺の寮になる可能性もあります」
「はい」
「年齢は29ね、――へえ、もっと若いと思ったけど、けっこういってるんだね」
「はい」
「うちの社員って20代前半もざらにいるのね、まあ今後働いていく中で、そういった若い子に指導を受けたりすることもあるわけだけど、その際に状況によっては――工場内は一歩間違えると大惨事になるような危険も多いから――状況によっては、どうしてもかなりきつい言葉をかけられることもあると思うんだけど、そのあたりはどう? 大丈夫?」
「はい」
「やっぱりそれに腹が立ってケンカになった人も過去にはいてね。まあ君なら大丈夫そうか」
「はい」
おれは人まねを覚えたばかりのインコのように、常にイエスを返し続けた。
ペッパーくんにも劣る会話能力だ。

「うん、握力も問題なさそうだね。あとは仕事内容なんだけど、これをやってみたいっていう希望はありますか? もちろん先ほどお伝えしたように、希望通りの仕事に必ずしも配属できるわけではないのですが」
――きた。

「はい、自分は手先も不器用で、体力も全然なんですよ。ですので組立とか塗装よりは、検査みたいな、みたいなっていうか、検査が適任だと確信しています。
黙々とした単調な作業は苦になりませんし、長時間にわたって集中力を保てます。逆に体力勝負で体を動かしてなんぼの組立作業とかは、後ろにいる元気な短パン連中とかに任せておけばいいっていうか――」

インコが一転、エミネムになったかのように、おれは魂のライムを吐き続けた。
勢いに乗りすぎて、YOといいながら手を広げかけたくらいだ。

「――というわけで、僕からは以上です」
「はいありがとう、では席にお戻りください」

話の合間にうんうん言いながらうなづいてはいたものの、予想をはるかに下回る面接官の反応の悪さに首をかしげながら、おれはおとなしく席に戻った。

テストあるんかい。そしておれはホラッチョに。

全員の面接が終わると、改めて冊子と用紙が配れた。

「はい、では最後にちょっと、簡単なテストを行わせていただきます。制限時間がきたらお知らせしますので、その場合は解きかけであっても次のページの問題に進んでください。制限時間内に終わった方も、合図があるまでは次のページに行かずにお待ちください。
では、はいスタート」

一斉に用紙をめくる音。
テストは学生時代にやったIQテストと、自動車教習所でやった性格診断テストを合わせたような感じで、足し算や図上のブロックを数えたり、「どちらかといえばすぐカッとなるほうだ」などの質問に自己診断して点をつけていくような、たしかに簡単ではあるけど実にうんざりさせられる単調なものであった。

1ページ目の半分をこえたあたりで、おれの集中力に限界がきた。
ああ、フルーチェ食いてえ。
「黙々とした単調な作業は苦になりませんし、長時間にわたって集中力を保てます」
先ほど面接で熱弁した自分の言葉が、真っ赤なウソであることを、自分の身をもって教えられた。

エミネムが一転、今度はホラッチョだ。


おれの脳がホセ・メンドーサ戦後の矢吹ジョーになった頃、ようやくテストが終わった。

「――本日はどうもありがとうございました。合否の結果は大体10日ほどで郵送させていただきます。それでは気をつけてお帰りください」

おれは悪夢の会をのりきった満足感と凄まじい解放感に浸りながら、家路についた。
実はまだスタートラインにさえ立っていないことにおれが気づくのは、我が家でフルーチェを食った後だった。

燃え尽きたジョー

ああフルーチェ食いてえ