ガリガリ君をきっかけとして、坂田は新たな性癖に開眼したが、それはこの話のメインテーマではない。

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

ガリガリ君の当たり棒

初出勤を翌日に控えた夜、おれは友人の坂田と公園にいた。
坂田が、ガリガリ君を食べながらポツリと言った。

『あそこは現代の蟹工船だってよ』
「え?」
『先輩が言ってた。なんかとにかくやばいって。なんか蟹工船だって』
「いや、その蟹工船ってなに?」
『本だよ』
「本?」
『日本を代表するプロレタリア文学だよ。読んだことない?』
「ないない。てか坂田すごいな、そんな難しそうなの読んだことあったのか」
『いやないよ』
「ないんかい」
『ああ、一文字もない。お、当たったわ、このガリガリ
「呼び捨てにすんなって。君くらいつけてやれよ。いやーでも話戻すけどそんなにやばいのか。なんか嫌な予感しかしない」
『先輩が言うには、やばいハードでやばいきつくて、ほんとだって』
「工船はつけろよ。いたっ。不安で胃がいたくなってきた」
『つーかさ、当たりがでたはいいけど、もう一本くださいって交換にいくのってどうなのかな? アラサーの大人として』
「俄然なしだな。それより胃がいたい」
『いきなりこの棒もってったら、あのツインテールのバイトちゃんは困惑するし普通に引くよな。なによりその恥辱感がガリガリの値段を上回ってる気がしてならない。
――と思いきや、むしろ逆に快感かもな!困惑・恥辱・ツインテールのスリートップでなんかケミストリーが起きたんですけど!!!』
「胃がいたい」


そう、あの夜に感じた胃がきりきりと縮こまるような不安は、いまだに鮮明に思い出せる。

隣で新たな性癖に開眼しつつある坂田が心底うらやましく思えた。
もちろん性癖にではなく、その自由の身にだ。

坂田と過ごすこの平穏な日々に戻ってこれるのはいつのことだろう。
明日からおれはHONDAと刺繍されたツナギを着るんだ。

ガリガリ君の当たり棒をマイクスタンドのごとく闇夜にかかげ、なぜかエアロスミスのミス・ア・シングを熱唱する坂田の隣で、おれは静かに絶望していた。

スティーブン・タイラーとミスアシング

ドワナクローズマァーイ