期間工の期間の始まり【2】 ―ずるいよ、ツナ女のハニートラップ―

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

女子

期間従業員入社説明会スタート
――I am A BATHING APE

席に座ってから15分後、予定通り入社説明会がスタートした。
席はようやく半分埋まったかどうかというレベルだ。名前の書かれた紙だけが、むなしく机にのっている光景がいたるところに見受けられる。

――やはり逃げやがったな。チキン短パン共め。
おれは臆して姿を見せなかった連中を、心の中で痛烈に罵倒した。
“チキン短パン”の語音から、チキン南蛮を連想して、若干腹がへったりもした。

ただ、現れることなく消えていった同胞たちへの妬ましさ羨ましさはあるが、その反面、この場にとどまった勇気ある自分へちょっとした誇らしさも覚えていた。
社から誉めてもらえないかなとさえ思った。


当然のことながら、ちゃんと会社へきた者への称賛の言葉は特になく、説明が始まった。
壇上でマイクを握るキリッとしたイケメンは、おれと同世代くらいに見えた。

社会で揉まれて着実に成長してきた人間と、日本というぬるま湯の国の恩恵を受け、流れるままにだらだらと生きてきた怠惰な自分とのあまりの差に愕然としながら、おれは彼の説明を聞いた。
ちなみにアパレルブランドのA BATHING APEはこの後者側の意味が込められている。
――ぬるま湯に浸かったサル。

ああ、おれのことさ。


イケメンはこれだけの人数を前にして臆した様子もなく、堂々とした口調で理路整然と説明を進めていった。

わかりやすい、すごい、かっちょいい。
同年代の雄姿におれは感銘を受けた。
おれを担当したあの面接官にも聞かせてやりたいレベルだった。

今後のスケジュールをざっというと、こんな感じだ。
1日目ーー健康保険・年金などの書類手続き、健康診断、ツナギを来ての社員証用写真撮影、安全講習、配属先詳細発表など
2日目ーーインパクトドライバーその他の工具を使った実習、配属チームへの挨拶
3日目ーー現場でOJTスタート

ツナ女ハニートラップ説

ちなみにさっきまで入り口にいたツナ女(ツナギを着た女の子)たちは、イケメンの説明が始まるやいなや、蜃気楼のように消え失せた。

彼女らが受付をしていたのは、おれたちをなんとかホールに招き入れようとするハニートラップだったのではないか。

いや今考えてみると、そもそも本当にホンダの従業員かどうかだって怪しいもんだ。
だって見てみろ、この空間。
見渡す限り、男男男男、ジャージ短パン短パンジャージ……。
完全にラーメン二郎のカウンター状態じゃないか。

こんなヤサイニンニンクアブラマシマシな連中と先ほどのツナ女が、同じ職場で同じものを食べて同じ仕事をしているわけがない。

そんな疑念が頭を渦巻いているうちにも、壇上のイケメンはさくさくと司会進行を続け、気づくと書類手続きや動画を使っての安全講習が終わっていた。

イケメンには申し訳ないが、はっきり言って、この間の記憶はほとんど残っていない。
ぜんぶツナ女のせいだ。

そしていよいよツナギに着替えての写真撮影が始まる。