ホンダ社員寮は家賃・光熱費無料! それでも不満なら寄居寮の人間を探せ

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

期間工といえば社員寮。ホンダ社員寮のクオリティ

期間工になってしまった後悔&不安だけが残る期間工1日目が終わり、おれはホンダの社員寮へと帰ってきた。

家賃・光熱費無料の社員寮は、期間工案件の最大の目玉といっていい大サービスだ。
がっつり貯金がたまるのも、この辺りの要素がものすごくでかい。


ホンダの社員寮は狭山工場周辺に複数あり、おれが入ったのは新狭山駅の隣の南大塚駅(通称・ナンツカ)にある寮だった。

電車を利用して帰る人間がほとんどだが、工場から歩いて帰ることもできる距離だ。

西武新宿線の線路に沿って期間工のおっさん達がとぼとぼと帰る光景は、映画「スタンド・バイ・ミー」から青春の要素を全消ししたような渋い哀愁があった。

よく脳内で「スタンド・バイ・ミー特別編 ~こんなはずじゃなかった~」などスピンオフ的なタイトルを考えながら帰った。

この世の者とは思えない生気の無さウォーキング・デッドっぽくもあった。

もちろんおれもその一員だ。

スタンドバイミー

【スタンド・バイ・ミー】
いわずと知れたキラッキラに若さが光る青春映画の名作。
周りの風景を工場地帯にかえて、線路を西武新宿線にかえて、少年たちを猫背のおっさんにかえると、ホンダの帰宅風景っぽくなる。


最近ではこぎれいなワンルームマンションも当たり前になってきた自動車工場の社員寮。

だがホンダの南大塚寮は、そんな時代に真っ向から反逆していた。

老朽化とまではいかないが、ひと目で年期が入っているとわかる誉めどころのない外観。
干からびた和菓子のような色の建物で、設備も雰囲気も一言でいえば微妙だった。

寮のクオリティの高さでよく話題となる、いすゞ自動車、日産、マツダなどの写真を見ると、スマホ中年サラリーマンの黒いガラケーくらいの差を感じた。

噂によると、狭山周辺のホンダ寮はどこの設備も似たり寄ったりらしく、そんな大差はないらしい。

とはいえ、おれはそういう雰囲気のほうが落ち着く昔ながらの男だ。
余談だが、前に1人暮らししていた部屋も、あえて陰のオーラに満ちた畳部屋を選んで借りていた。

ただ、おれは病的に地震への恐怖心があるため、不動産屋に出した条件は、
「畳部屋×鉄筋コンクリート造り×○○駅徒歩10分圏内」だった。

神経質そうな小太り眼鏡に「あのね、ないよ」とため息をつかれたのは鮮明に覚えている。
結局見つけてくれたけど。グッジョブ小太り。


しかしホンダが今後のメイン拠点としていく寄居・小川工場の寮は、2000年代に建てられただけあって、さすがにクオリティが違う。

新築できれいで設備も最新鋭で周囲の環境ものどかで静か。都心なら10万弱くらいはするであろうクオリティで、要するに快適ということだ。
そう寄居寮から狭山工場に通っている同僚から聞いた。

ただ、これには深くて暗い落とし穴がある。


埼玉の地理に詳しい人なら、『寄居寮から狭山工場に通っている』という言葉がさらっとでたとき、マジかよと驚愕しただろう。

たぶん埼玉を知らない皆さんが思っている距離感をはるかに上回る。
寄居と狭山はもうマジで冗談みたいにめっちゃくちゃ遠いのだ。

寄居町の新工場に配属なら特段なんてことはないのだが、寄居寮・狭山工場配属の人間は悲惨だ。
寄居寮から新狭山まで、なんとバスでおよそ1時間強かかるのだ。※ちなみにおれの寮がある南大塚の駅までは電車で2分。

1勤(早番)の場合、出発時刻はなんと朝の4時だ。
仮に寝坊して乗りそこねた場合、自腹をきって電車で工場までいかなければならない。

そこまでしても遅刻は遅刻だから、普通に怒られるし、もちろん給料からもシビアに引かれる。※ちなみに3回遅刻すると、1回の欠勤と同じ扱いになる。

同様に2勤(遅番)の場合、業務が終わり新狭山を出るのが大体24時。寮に着く頃には午前1時を過ぎる時間となる。
この時間だと電車も走っていないため、万が一バスに乗り過ごすと、帰る術がタクシー以外なくなる。
ちなみに寄居までタクシーを使うと、代金が日当を上回るという不条理な目にあう。

寄居寮の人間と話すたび、自分が恵まれていることに気づき、設備への不満も薄れるので、おれは知り合う人知りあう人に、積極的に寮がどこかを聞くようになった。

そんなことより期間工になっちまったのか。
ため息は秋風に乗って

ホンダの寮にいるのは基本的に期間従業員と20代の社員たちだ。※30代正社員は寮に入れない。

部屋は6畳ほどの1Kの個室だ。まあ寝起きするには充分である。

社員寮

実家に帰りてえ……

おれの部屋はまだほとんど荷物もなくガラガラだ。
もともと家が近いので、引っ越しは1ヶ月くらいかけて徐々にやっていこうと考えていた。

風呂に入って、フトンに横になると、かつてない疲労を感じた。
この疲労感には未来への不安が大きく含まれていた。
まだ一秒も作業はしていないのに。
まだ休みまで4日もあるのに。

立ち上がって窓を開けると、国道を勢いよく走る車のエンジン音が聞こえてくる。
おれは重たい気分で、タバコに火をつけた。

涼しい秋の夜風にタバコの煙とため息が流されていった。