過酷・期間工2日目のブログ【5】―ミス・ア・シングがかかれば、なんでも感動的になる説―

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

アルマゲドン

ハーメルンの笛吹き男が、期間工のおじさんを全員連れ去ってしまいました。

食堂で昼メシをすませ、改めてホールに集合した。
これから、いよいよそれぞれの各配属先へと向かうこととなる。

ホール前方に、引率係の男たちが何人か現れた。
全員、見事なまでに没個性の無機質な雰囲気だ。
今から彼らに、各々の配属先の事務所へ連れていってもらうことになる。

工場内にはユニットごとにいくつもの事務所がある。
敷地があまりに広大で、しかも内部は迷路のようになっているため、こうして最初は引率の人間が必要なのだ。

マイクを持った壇上の男の口から、次々とユニット名が読み上げられていく。
該当したユニットの人間が立ち上がり、引率者の後についてふらふらとホールを出ていく。
その様子は、どこかハーメルンの笛吹き男に連れ去られる、無力な子供を思わせた。

もしくはドナドナ。


「No.2ライン・フロントドア、リアドア配属の方は前にお集まりください」
リアドア――きた。おれの番がきた。
アカデミー賞の発表を受けたように、おれはすっくと立ち上がり、右手をあげる引率者のもとへ向かった。

今後長きにわたってドアを造る運命となった、うだつのあげらなそうな同期たちも、おれに続く形で集まってきた。

特段サービストークなどはないまま、引率者は「ではこちらです」と言って、てくてく歩き出した。
おれはそれを追った。

一度屋外に出て、通路なのかよくわからない通路を使って、No.2ライン(おれの作業場)のある別の建物へ向かう。
道順が複雑すぎて、覚えられる気がしない。
諦めて目の前のマッチョのうなじだけを見ているうちに、機械の駆動音が強くなってきた。

目の前に幅の広い階段。
そしてその先の光景――No.2ラインの入口についてしまった。

ミス・ア・シング

階段の先には、観音開きのドアが開いたままで固定され、大きく口を開けていた。
The・工場らしい雰囲気はあるが、どちらかといえば町工場的な感じの、簡素で前時代的な入口だった。

ホンダならではの近未来な合金ドアや、徹底管理されたセキュリティーを想像していたので、これはとても意外だった。

「ここから先は必ずゴーグルまたはメガネを着用してください」
男たちが一斉に、昨日支給された3D映画用みたいな透明のゴーグルを装着した。

ゴーグルをつけたその瞬間から、おれたちのルックスは地球防衛隊となった。
ほとばしるポンコツ感だ。

「工場内は非常に危険が多いです。入るとすぐフォークリフトも走っています。機械の音で声も通りづらいので、くれぐれも気をつけてください」
引率者のピリッとした口調で、隊員たちに緊張が走った。

「では行きますよ」
そしておれたちは大いなる一歩目を踏みだした。
BGMはもちろん、エアロスミスのミス・ア・シングだ。

♪ドワナクロォーズマアーイ……