過酷・期間工2日目のブログ【6】―期間工がダメなら、吾輩はDJやるナリよ―

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

コロ助

マッチョとネクラ、仲良くやろうぜ!

シュゴー。
ピピピピ。
ファンファンファン。

工場内は、ありとあらゆる種類の機械音に満ちた空間だった。
独特の金属的なスメルと相まって、凄まじい異世界感に圧倒された。
目の前を走っていくフォークリフトも、屋内のせいかむちゃくちゃ速く感じる。

おれの前を歩くマッチョも、気をつけているのか目移りしているのかよくわからないくらい、キョロキョロしている。

歩きだして少しすると、工事現場にある従業員用のプレハブ小屋をちょっと大きくしたような、簡素で地味な建物が現れた。

前をいく引率者がこちらを向いた。
「こちらがリアドアユニットの事務所です」

「では、お二人はここで」
引率者はそう言うと、おれとマッチョを事務所の前において、他の男たちを別の事務所に案内すべく、さっさと消えていった。


マッチョに目をやる。
この生真面目そうなマッチョが、おれと同期入社なのか。
年もおれと同じアラサーくらいだな。
マッチョもマッチョで、”このネクラそうなのが俺の同期か”と思っているに違いない顔をしている。

なんとはなしに、おれとマッチョはお辞儀しあった。
「――あの自分、小牧って言います。よろしくお願いします」とマッチョ。
「――森三です。よろしくお願いします」とおれ。
「――とりあえず入りましょうか」とマッチョ。
「――とりあえず入りましょう」とおれ。

オオカミの群れの中の白ヤギさん。絶望。

ビクビクしながら事務所のドアを開けると、そこには細フレームのメガネをかけた、目つきが異様に鋭く、ヒステリックな雰囲気のこれまた同年代くらいの男が、デスクのパソコンに向かっていた。

反射的にドアを閉めて、おれは帰宅した。
といきたかったが、そうもいかない。

中に入ると、男は鋭い目でおれたちを一瞥した。
修羅場をかいくぐらないと出せないアウトレイジな目力により、おれの胃は突然もたれだした。

おう、新しい期間さん? ――ちょっと待ってて、今リーダー呼んでくるわ」男はそう言うと、裏口のドアからズンズン外へ出ていった。テンポが早い。

「犬同士は目が合うだけでお互いの強さがわかる」
かつて知人の犬博士がそう言っていたが、今のおれもまさにそれだ。

目があった瞬間にわかった。
弱肉強食の世界で切磋琢磨してきたオオカミと、お手紙をたべた白ヤギさんくらいジャンルが違う。
どちらが強いなんて言うまでもない。

ここはナチュラルに「おう、」から会話が始まる男の世界、いや漢の世界だ。
「おう、」から会話を始める奴に、ヤギが勝てるわけない。

隣を見ると、小牧も完全に場にのまれた顔をしていた。
なんとはなしに、おれと小牧はお辞儀しあった。

しばらくすると、ドアがガチャリと勢いよく開いた。
リーダー登場。
おう、お待たせ!!」

またでたオオカミだ。

優秀なリーダーが、おれにとって最高とは限らない。

「Aチーム、リーダーの柿山です。とりあえず今後はなにかあったらひとまず俺のところに言いにきてくれ」
柿山リーダーが妙に甲高い早口でさくっと名乗ってきた。
ここのメンバーはとにかくテンポが早い。

おれたちも慌てて自分の名前を名乗った。
「小牧です」
「森三です」
ふたり合わせて……とおれの口が暴走し始める直前に、小牧が「よろしくお願いします!」と勢いよく頭を下げた。
おれも慌ててそれに続いた。

「はい俺のほうこそよろしく」
オオカミの”よろしく”は、ヤギにとって”世露死苦”に聞こえる。

柿山リーダーは細身だが攻めのエネルギーに満ちあふれた雰囲気で、まず間違いなく怒ると怖そうなタイプだった。
おれにとって現場のリーダーに求められる資質は、怒らなさそうのただ一点である。
おれ基準でいえば、残念ながら完全にリーダー失格であった。

水面下でそんな低評価が下されたとは知らないまま、リーダーは「まあ座りな」と手振りでソファーを勧めると、書類棚へ歩いていき、なにやらごそごそと探しだした。

リーダーが示した先には、いかにも自動車工場にぴったりな、ところどころ破れのある黒革の長いソファーが、部屋の壁に沿うように置かれていた。

おれと小牧は言われた通り、おとなしくソファーに座った。

外で見たときに想像したより、中は意外に広く、20畳以上は余裕であろうかという縦長の作りになっていた。

壁に貼られた「安全なくして生産なし」の標語。
最初の細フレームの男、そしてリーダーを見たことにより、おれには標語が「仁侠」という言葉に見えた。

お料理行進曲 ―EDM RemiX ver―

「うぇい」
文字にするとちょっと可愛いが、実際は全然そんなことはないドスのきいた声で意味不明な発声をして、柿山リーダーが目の前の机にドサッと書類を置いた。

「ふたりはガラス締め付け担当。車ごとに作業違うから、一応なにやるかだけその工程表を見て頭いれておいて。まあ実際は体動かしながら覚えていくことになるから、ざっくり流れだけ知っておいてくれればいいよ」

分厚い資料を開くと、フリードやステップワゴンなど、よく知る大衆車名がずらりとならび、それぞれのドアがどのようなフローで完成するかの作業工程が書かれていた。

どうやらミニ四駆とはわけが違うようだ。
資料には使うボルトの種類から、工具の種類、それぞれの注意点などが、米粒のような字でびっしりと書いてあった。

これならまだ、コロ助を製造するほうが簡単にできそうだ。
もう我輩はお手上げナリよ。


端から見れば、おれの目は熱心に資料を眺めているように見えただろう。
だが実のところ、あまりの細かさ煩雑さに脳がホワイトアウトして、同じページの同じシミを眺めていただけである。

脳の回路がいかれたのか、いつしか頭の中には、キテレツ大百科のオープニングソング「お料理行進曲」がループしだしていた。

しかもラストの「♪キャベツーはどおーしたー」のところばかりループされ、ついにはリミックスバージョンまで作りあげてしまったのだ。

“♪キャベベキャベベキャキャベツーはどっどどどどおーしたーYO!YO!YO!”

狂気のパニックにおちいっているおれを尻目に、小牧はふむふむうなづきながら興味深げにページをめくっている。
それにより、おれの焦りと帰りたさはほぼマックスに達した。

机に向かっていた柿山リーダーが、こちらへやって来る。
「大体流れは頭にはいったか? それじゃちょっと現場いってみるか」

全然はいってないYO!
とはもちろん言えないので、結局知識ゼロなまま、ラインへ向かうこととなった。

ここがどうしてもダメだったら、次はEDMをやろう。
吾輩、フロアを湧かせるナリよ。

DJ・コロ助ナリよ