過酷・期間工2日目のブログ【7】―工場の景色が複雑すぎて、文章じゃ書けない―

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼

おれと小牧

とうとうステージの幕開けナリよ

――待てよ。
コロ助の生まれた時代背景を考えると、「吾輩」より「拙者」のほうが合ってるんじゃないか?
あと「ころすけ」という単語を変換すると、「殺すけ」っていう茨城のヤンキーっぽい凶悪な言葉に変換されないか?
絶対まゆげ無いやつだよ。
マスクして特攻服着てるやつだよ。
あーこわやこわや。

そんな現実逃避をしているうちに、リアドアのレーンについてしまった。
逃避したくてもできないナリよ。


ラインと通路の間には、分厚いビニールカーテンが設けられていた。
薄汚れた半透明のカーテンを通して、回転寿司のようにゆっくりと進んでいくドアが見えた。

そして身をかがめてドアにインパクトを向ける男たち。
横並びで歩きながら、リーダーが甲高い声をあげる。

「ラインの一番奥がガラス締め付けな。ちょうど今、先週入った期間さんがお前らがやるのと同じ作業を習熟中だから、よく見ておくように。
森三は3ドア(運転席側のリアドア)、で小牧は4ドア(助手席側のリアドア)な」

ラインの奥まで行くと、リーダーはカーテンを開け、カジノの黒服のような仕草で、おれたちを中へ導いた。

通路に比べて、ラインは階段三段ぶんくらい高いところにある。
ダメだ。
描写が面倒くさい。
絵で描こう。

ホンダの作業風景

ライン上では、ひとつのドアに対して、男性ふたりがついている。
よく見ると、片方は必死な形相でインパクトを握り、もう片方がレンチを持ってその作業を見つめていた。

なるほど、今インパクトを握っているのが、まさに習熟中の先輩期間工なわけだ。

「ここがガラス締め付けだ。おーい加藤!」
リーダーのよく通る声で、3ドアの作業を見守っていたスマートな男がこっちへやってきた。

ライン上でザ・ノンフィクションな闇を見た。

「今週から期間従業員として一緒に働いてくれる森三さんだ。
森三さん、こいつが指導係の加藤ね」

まだハタチそこそこだろうか、すごく若く見える。
加藤はゴーグルの奥の糸のような目を器用に使い目礼して、ドアへと戻っていった。

「おーいタン!」
再びリーダーが野太い声をあげる。
すると4ドアを見守っていたイケメンが、軽快な足取りでこちらへやってきた。

「今日から入った小牧さんだ。
で、こいつが小牧さんの指導をするタンね。中国の子だけど、日本語ペラペラだから安心して」

――なるほどタンという名前だったのか、とおれは合点がいった。

実はリーダーが「おにーたん!」と叫び出したのかと思って、こいつ錯乱しやがったかと身構えていたのだ。
タンはペコリと頭を下げるとまたドアに戻っていった。

彼も20代前半といったところであろうか。
たしかにみんな若い。

そして驚くことに、今3ドア4ドアでそれぞれ作業をしている男たちは、どちらも明らかに30オーバーだ。

他のポジションを見ても、やはり習熟中の連中のほとんどが、指導者より年上のようだ。
なるほど、これはケンカだなんだのトラブルになるわけだ、とおれは納得した。

同時に、この光景にフジテレビのザ・ノンフィクション的な闇を感じた。

期間工という名の地獄へようこそ

突然ヴゥーーーッという映画館の上映ブザーのような音が鳴り、ラインが止まった。

男たちが一斉に工具を置き、ラインから引き上げていく。
本日の業務の定時がきたのだ。
加藤とタンも、若者っぽく談笑しながら休憩室へさっさと引き上げていった。

習熟中であったふたりの男が、肩で息をしながら作業台のペットボトルをがぶ飲みしている。リーダーが止まったラインの上にあがり、おれと小牧を手招きして、先程と同じ流れで男ふたりにおれたちを紹介する。

荒い息を吐くふたりの目が「地獄へようこそ」と光っていた。

おっさんといっても、ふたりはまったく毛色の違うタイプのおっさんで、小牧と同じ4ドア担当の木下さんはThe・おっさんといった感じの主張が少なそうな普通のおっさん

そのせいか、さっき描いた絵でも、木下さんの名前をいれ忘れてしまった。
申し訳ない。

ホンダの作業風景

そして3ドア担当の丘さんは、サラサラの長い茶髪をなびかせたビジュアル系中年男子
木下さんとは対照的に、ハードに主張しまくりのおっさんだ。
顔はムッシュかまやつをフォトショで縦に引き伸ばした感じだ。


現在は数百人規模で期間従業員を集めて、工場全体で一斉に習熟期間をとっているため、森三と丘さんは同時間帯に勤務しているのだが、一ヶ月後は2勤務体制になり、早番が丘さんのときは森三が遅番、みたいな体制になるんだよとリーダーが説明した。

「はい、昨日の説明で伺っています」と小牧。
うそ、おれ初耳なんですけど!!
とは言えず、おれも「はい、らしいっすね」と真顔でうなづく。

まあ、つまりこういうことだ。
・3ドア担当――丘さん(Aチーム)、おれ(Bチーム)
・4ドア担当――木下さん(Aチーム)、小牧(Bチーム)

そうか、一ヶ月後、おれはひとりでこのポジションを担当しなきゃならないのか。
できる気がしねえ。

「まあとりあえず今日は終わりだから明日に備えようぜ。
丘と木下はゆっくり体を休めろよ。森三と小牧も明日から習熟開始するから、工程表をもう一回見とけ。おれからは以上、解散」

ラップバトルのような口調でそう言い残し、リーダーも事務所へ引き上げていった。

帽子をとり長い髪をかきあげた丘さんが、ライブ後のような汗の流れるくどい笑顔で、おれの顔を見た。

「いやあ、この作業はやばいですよ本当に、いやマジで。ふふふ」

……ですよね。

今日はもう帰ろう。