アルコール依存症の期間工ブログ【2】 ―酒と泪と男と女と期間工のおじさん―

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酒と泪と男と女

期待不安背徳感の共存を、私は快感と呼ぶ

前回の通り、おれは期間工の仕事終わりのコンビニで、“ふと” ビールの500ml缶をカゴにいれてしまった。
“ふと” 出てしまう行動って、一見気まぐれの軽率な行動に見えるけど、その裏をひもといていくと過去の様々な事象が影響してるんだよな、と今ふと思いました。まあこれはいいや。

ちなみに恥ずかしながら今ひさしぶりに酔ってるので、ここから先、支離滅裂になる予感ぷんぷん丸です。

実はカゴにビールをぶちこんだとき、いい年をした大人ながら、けっこうドキドキかつワクワクもしていた。

期待不安背徳感
おれが大好きな感情のトリオだ。

よく考えたら、飲み会以外で自分で金を出して、アルコールを買うのが初めてだった。
おれのテンションの上がり方は、ほとんど高校生だ。


コンビニを出るや、そそくさとプルタブを開ける。
プシュっという軽快な音とビールの匂い。
初めて味わう大人のご褒美感。

で、それを飲みながら電車で一駅走って、南大塚の駅で降りた。
ときにはもうへべれけだった。

よっわ。

おれは自分の弱さに自分でもひいた。
さすがパッチ検査に裏付けられた、公式の弱者だ。

その夜は寮まで帰れず、明け方まで駅前の植込みで寝た。
やはりビール500mlは、おれの限界値を超えた量だった。


で、いつもならそこから、次の飲酒まで長い長い期間があくのだが、そのときはなぜか違っていた。
次の日もまたふと酒を買ったのだ。
理由なんてわからない。

ただ前回の反省を踏まえて、アルコール濃度と量は落とした。
必然的に選択肢は、サントリー「ほろよい」一択に限られていた。

ほろよいとはいえ、アルコール弱者には強敵だ。
カジュアルに酒を楽しめる余裕なんて、まだおれにはない。

で、やはり「ほろよい」では済まず「泥酔」となった。
たださすがにダメージは少なく、今回は植込みでなく、ちゃんと社員寮のフトンで寝ることができた。

2週間同じ行動を続けると、人の脳はそれを習慣と見なすらしい。
おれは余裕でそのハードルをクリアした。

飲酒はスムーズに習慣となった。

仕事終わりに酒を飲むのが唯一無二の楽しみになった。

河島英五

なんていうか、こういうレトロな男にあこがれがあるんす。

アルコールに酔うということ

お酒は飲めないけど、お酒の席は好き。っていう人もいる。
おれはどちらかといえば、酒の席はそうでもないけど、酒が好きという硬派なタイプだ。

味なのか、雰囲気なのか、とにかく料理と一緒に並んでいるとワクワクする。
目の前にアルコールがあって、これから飲めると思うと、素直に嬉しい。


おれの酔い方は、テンションが上がる酔い方ではない
頭の回転が鈍くなって、眠くなって、体が重くなって、人と話をするのが面倒になる。
そして、わけがわからなる。

なんていうか、酔い方が自失的なのだ。

まあでも時には自失も良いものだ。
人とコミュニケーションをとる場で自失するとマイナスになるが、1人で飲む分には、特にマイナスなことはない。
わけがわからないほうが、わかるより全然ハッピーなときがある。

今日だけでも忘れたいことがあった時とか、お酒は有効だよね。
澱のようにどんより溜まったストレスを、その瞬間は忘れさせてくれる。


あと、今ようやくしっくり納得できる連続飲酒の最大の要因に思いあたったけど、あの飲み始めた頃、おれの頭にあったのはちょっとした達成感であり充実感だった。

“飲めば飲むほど、酒に強くなる”
ずっと都市伝説だと思っていたこの説だが、実際に実感をもって強くなっていくのがわかるのだ。
みるみる耐性がついていった。
それが嬉しかった。

長らくおれの人生から遠ざかっていた感覚――達成感だ。

強くなければ生きていけない。
優しくなければ生きている意味がない。

そうフィリップ・マーロウも言っていた。

まあ今のはちょっと書きたくなっただけで、この名言をだす必要は特にない。
はい、酔ってるんで。


まあとにかく例えば筋トレして肉体が変わっていくのって楽しいじゃない。
腹筋がシックスパックに割れるのって、達成感あるじゃない。
実はジムに行ったことないし、パックの境目ゼロのぽよぽよの可愛いお腹だけどきっとそうじゃない。

意図的に肉体を変えていくのって、人間にとって無条件で快楽なのだ。

たとえそれが無益であっても。

ビールは、私を詩人へと変える。

仕事帰りにほろよいを買うようになってしばらくすると、ほろよい一缶では物足りない自分がいた。
そろそろリベンジの頃合いなのではないか。
おれは久々に、キリンビールの350ml缶を買ってみた。

ぐび。ぐびぐびぐび。

――冷たい苦みが喉に弾け清流のように流れていったその刹那、その裏に隠れていた仄かな甘みが姿を現して麦の芳醇な香りと共に夜空へ駆け抜けていった。

なんだこのかつてない詩的表現
どうした、おれ。

というくらい、おれはアルコール、特にビールを注入するとなぜか詩人化する。

凶暴になったり、号泣しだしたりするよりかは、遥かに扱いやすい酔い方ではある。

とにかく初日とは打って変わって、とても良い塩梅の酩酊だった。
初日とは違って、おれはビールという暴れ馬を乗りこなしていた。

ヒィィャッッホ~!!
おれは夜に向かってシャウトした。
いける。

これでますます調子に乗った。

“倶楽部へようこそ”
おれもようやくその一員さ。

工場内外で、おれの周りには酒好きが多かった
おれはずっと彼らが羨ましいと思っていた。
羨ましいというか、ずるいなと思っていた。

彼らは好きなときに酔って、シラフではたどり着けない精神状態に入りこめる。
ときには逃げ込める。

それが不条理さを覚えるくらい、とても羨ましかった。

日本では精神を合法的に酔わせるには、お酒しか選択肢がない。
ちょっとくらいヤンチャな行動力と度胸があれば、まあギリギリセーフな手段もあるにはあるが、それも親や恋人に胸を張れる行為ではない。

酒が飲めるようになるということは、彼らと同じように自分専用、個室ブースを手に入れたことを意味する。

「倶楽部へようこそ」
つまりは、そういうことだ。
ようやくおれもその一員になれたのだ。

みんなが持っている心の中の隠れ家。
それを手に入れた気分だった。

その頃は、やめようと思えば、いつでもやめられると思っていた。

春の風が彼女の髪を乱すとき、私は日本酒を飲んでいた。

なんの奇跡が起きたのか、当時おれには女子大生の彼女がいた。

10ほども年齢の離れた、年の差カップルだった。
透き通るような白い肌をした美しい人だった。
燃えるような情熱と、冷たさを併せ持った、凛とした雰囲気の人だった。

週末は、西武線沿いにある彼女のマンションに行くのが日課だった。

おれは飲酒習慣がつき始めたことを、彼女に隠していた。
彼女の性格を鑑みたとき、おれの飲酒癖に嫌悪感を示すのは明らかだったからだ。
酒を飲む行為というより、人が欲望に屈する姿への嫌悪感だ。


ある土曜日の昼。

彼女が学校へ行っている間、どうしても我慢できず、マンション下のコンビニで日本酒と寿司を買って、部屋でひとりで飲んだ。
これは”ふと”ではなかった。
迷って迷って、それでも我慢できなかったのだ。

服、マンガ、ぬいぐるみ、ベッド、ピアノ。
彼女の所有物にあふれた部屋で、真っ昼間に飲む日本酒は、ほとんど裏切りといっていい行為だった。

おれは自分に驚いていた。
自分の行動を制御できなかったことにだ。

窓の外には桜吹雪が舞っていて、近くにある大学の新入生たちが歩いていた。
後ろめたさとの中で飲む、キンと冷えた日本酒はとてもおいしかった。

東京の桜

<つづく>

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