ゴーンよ、これが正しい金の使い方だ。川越発・『あげまん学園』の特別講義

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あげまん学園

現在、2018年11月。
衝撃的な事件が世間を騒がせている。

日産自動車の前会長であるカルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反の容疑で逮捕されたのだ。

現在、2018年11月。
最近、加齢のせいか、脳内回路に不具合が起こることが多い。

ネットニュースにゴーンの写真が出るたびに、脳がMr.ビーンと勘違いして、その2秒後に「ああゴーンか」と我に返る動きを飽きずに何度も繰り返している。
さすがに似せすぎだよ。


ゴーンは、言わずとしれた伝説的事業家で、日産自動車、ルノー、三菱自動車を股にかける超大物である。

おれはホンダ所属だったため、はっきり言ってゴーンとなんの関係もないが、自動車会社つながりで、一応注目はしているニュースである。

まだ事のすべてが判明したわけではないので、ここでこの件について深堀りはしない。

金融商品取引法違反もなんか正直よくわからないし、実をいうとこのニュースに対してそんなに興味がない。

おれが興味あるのはだ。
悪いことをしている最中の人間の顔だ。

大それた悪いことをするとき、人間はどんな表情をしているのかってことに、すごく興味がある。
人に最も見られたくない行為中の人間の表情というのに、すごく興味がある。

こうしていつもの通り脱線が始まる。


前々からおれは悪いこと、やましいことをしている瞬間の人間の顔に興味津々だった。
そんな瞬間を盗み見させてくれるアプリがあったら、課金してでも使いたいくらいだ。

時代劇の悪代官のような「うえっへっへ」とにやけた顔をしているのか。
緊張であわわあわわしているのか。それとも無表情なのか。

とても気になる。

ゴーン逮捕に揺れる日本列島。そして自動車業界。
とは関係なく、吉野の兄貴のガラスの少年時代の話。

そういえば、人に見られたくないときの顔というと、期間工の先輩・吉野の兄貴に聞かされた話を思い出す。

少年マンガなどでお色気シーンがあると、キャラは決まってエロい顔を浮かべる。
鼻の下を伸ばし、目が「く」の字になり、ときには鼻血も滴らせる。
昭和から続く定番の表現だ。

だが、とある出来事をきっかけに、兄貴はそれが間違いであることに気づいたそうだ。

それはまだ兄貴が思春期まっただ中、中学生のときの出来事らしい。

その夜、兄貴はいつものように親の目を盗んで、デラべっぴんやBejeanなどのエロい書を熟読していた。

で、その夜、「BUBKA(ブブカ)※現在はアイドルを中心とした総合カルチャー雑誌だが、90~00年代にかけてはアイドルのお宝写真を売りとした攻めの雑誌だった」の広末涼子のお宝写真を眺めているときに、窓のほうからの視線を感じたらしい。

ふとそちらを見ると、そこには反射した自分の顔があったのだ。
ガラスの中の吉野少年と、ブブカを開く現実の吉野少年は目を合わせた。

すごく、すごく凛々(りり)しい顔をしていましたよ

そう兄貴は遠い目をして振り返った。

”人間はエロいものを見るとき、凛々しくなる。”

これが、兄貴が経験から得た偉大なる法則だ。


それにしても今ここで不思議に思うのは、記憶に関する脳の仕組みだ。
人間の脳は取捨選択して、残すべき記憶と捨てる記憶をスクリーニングしている。

大事なことはすぐに忘れて、なんでこんなカスみたいな情報がおれの脳に保存されているのだろう。
フィルターがぶっ壊れているとしか思えない。

まあいい、今日は吉野の兄貴の話でもしよう。

愛すべき期間工の先輩・吉野の兄貴について

前にも言ったが、おれの担当工程はガラス締めつけである。

ざっくり言えば、ボディーにはめ込まれた窓ガラスをボルトで固定していくポジションだ。

で、おれの前工程で窓ガラスをはめ込んでいるのが吉野さん。
通称・兄貴だった。

兄貴について語れることは、まあ星の数ほどもある。

なにせおれと兄貴は二年もの間、隣り合わせのポジションで仕事をしていたのだ。
おれのホンダでの会話の総時間でトップかもしれない。


兄貴の特徴についてひとつ挙げるとしたら、まず全然兄貴肌じゃないってことだ。

世でいう兄貴の定義が、ガタイのいい体、大きな声、リーダーシップだとしたら、吉野の兄貴はすべてにおいて0点だ。

リーダーシップに乏しく声が小さくて、サザエさん的なシルエットで細身のくせに顔だけでかくて、女のようになで肩だ。
そんなもやし野郎だ。

なんでこのもやし野郎が「兄貴」と呼ばれるようになったかといえば、それはチーム内にもうひとり吉野さんがいたからだ。

もうひとりの吉野さんは、期間工の中でも一番の年配だった。
たしか50とかその辺りだった気がする。

で、いつしかその吉野さんに「吉野のおやじ」という呼び名がつき、それにひきずられる形で兄貴は「吉野の兄貴」となった。

歳が若いから「兄貴」となった、レアでややこしい事象だ。
この空間ではもうなんでもありだ。
ただ、若いといっても兄貴もすでに40オーバーだ。

作業場が隣り合わせのため、おれと兄貴はラインが止まる度によく話をした。
人生でも期間工としても先輩にもかかわらず、年下のおれなんかにも兄貴は丁寧な敬語を使って話してくれた。

おれは兄貴に絶大なる好感を抱いた。


兄貴は基本的に無口だが、その目は「私にかまわないでください」と口よりも雄弁に語っていた。

目立たぬように、そう石ころのように目立たぬように。
人の視界に入らないように。存在を意識されないように。
できることなら透明人間になりたい。

兄貴は、それくらい徹底して人間を避けていた。
人を避けすぎて、逆に目立ってたと言ってもいいくらいだ。
たぶん兄貴から誰かに話しかけたことなど、一度もなかったのではないかと思う。

だがそんな日陰者に魅力を覚えるのがおれだ。
おれはナウシカが王蟲に接するかのごとく、兄貴の心を開こうと努力した。

それにおれと兄貴の作業はセットなので、どちらにせよ連携のためにコミュニケーションは必須になるのだ。

頑張ったかいもあって、次第に兄貴はおれに対して心を開いてくれた。
そして時を追うごとに、会話から仕事の要素が消え、無駄な話だけが増えていった。

『あげまん学園』とは

「兄貴は休みの日とかなにしているんですか?」
話は、おれのそんな他愛もない質問から始まった。

そしたら意外な答えが返ってきた。
なんと兄貴は小江戸こと川越にある学校に通っているというのだ。
※ホンダの狭山工場近辺はマジで工場しかない。買い物や飲みに行くとしたら、電車で川越・もしくは所沢まで出る必要がある。飲み会の9割は川越で行われる。

「学校?」
『はい、そうです学校です』
「なんの学校ですか??」
『ふふ……あげまん学園です』


おれは帰宅するやさっそくググってみた。
しかし、そんな学園は見当たらない。

おれはものは試しでgoogleのセーフサーチをオフにして再度検索してみた。
あった

──あげまん学園
正式名称は、「伝説のあげまんを探せ!あげまん学園」だ。
制服を見る限り、そこは明らかに高校だが、「18歳未満、高校生の方は利用禁止」と書かれていた。

──あげまん学園
文字にして書いただけで、偏差値が20くらい下がった気分になる、破壊力のあるネーミングだ。

とにかく兄貴は、伝説のあげまんを探して、毎週末に小江戸川越へ繰り出していた。

あげまん学園は風紀の著しく乱れた女子校で、兄貴は夜回り先生さながらに、体を張ってミニスカートの生徒たちを注意して回っていた。

おれは兄貴を「あげまん学園・風紀委員特別顧問」として認定した。


兄貴があげまん学園に入学した経緯はこうだ。
東北育ちの兄貴は、ホンダに入り初めて上京してきた。

最初のうちは歌舞伎町をはじめ、池袋、渋谷、五反田、鶯谷、大塚と山崎大紀さながらに、東京の夜の街を探索していた。
だが、都内に出るのがなにげに手間なのと、東京の良くも悪くもプロな生徒たちに物足りなさを覚えてきて、ダメ元で川越に行ってみたのだ。

そこで出会ったのが、あげまん学園だ。
兄貴は利用一回目にして、この学園の教師となることを誓った。


兄貴いわく、あげまん学園には、東京ではお目にかかれない素人系女子がいっぱい在籍しているとのこと。

“ピュアな未経験の女の子を中心に集めました”
店が掲げるその言葉に嘘はないそうだ。
なにをもってピュアなのか、おれにはさっぱりわからない。

あげまん学園

伝説のあげまんってなんだろう。

生活費を目的として働きだしたら、それはもはやプロである。
だがあげまん学園には、生活に困っていない埼玉の実家暮らしの女子が多数いる。
それがいいそうだ。

『わたしの最終学歴はあげまん学園ですよ。ふふ……』
もう教師なんだか生徒なんだかよくわからないが、兄貴はしあわせそうだった。


期間工としてけっこうな額の収入があり、食費・住宅費・光熱費がただのくせに、兄貴はいつも金欠だった。

聞くと、期間工で稼いだ金は、あげまん学園の学費として消費されていたようだ。

そんなどうしようもない状況でも、週末になると兄貴は嬉しそうに笑みをこぼしていた。
土日の通学が楽しみでしょうがないのだ。

金曜のライン上で、上機嫌に歌っていた鼻歌。
あれはあげまん学園の校歌だったのだろうか。
今となっては、もはや知る術はない。


きっと世間は、そんな兄貴の生き方をダメなものとしてとらえるであろう。
というか、兄貴が自分で言っていた。
でもおれには、どうしてもそれがダメなものとは思えない。

金を稼いだ人間が勝者なのではない。
稼いだ金を「しあわせ」まで昇華できた人間が勝者なのだ。

つまり兄貴は、紛れもない勝者、勝ち組ってことだ。

そう、これが正しい金の使い方なのだよ、Mr.ゴーンよ。

▼シェアシタ貴方ヘ福ガ訪レマスヨウニ▼